四季報そよかぜ 2023年7月号

集団音楽療法について

脳神経リハビリ北大路病院 副院長 岡田純
(医師・音楽療法士)

 6年前、当院で音楽療法を開始したときに、この四季報において、音楽療法について書かせていただきましたが、その後、コロナ禍の影響で、集団音楽療法は中断を余儀なくされました。しかし、ご存じのように、5月8日から新型コロナは5類になり、いろいろな制限が緩和されつつあります。病院という、多くの抵抗力が低下した方々が入院しておられる特別な環境において、一般の市民生活と同等に制限を撤廃するわけにはまいりませんが、病棟における入院患者さんを対象とした集団音楽療法についても徐々にできることから始めていこうと考え、4月18日から再開させていただいた次第です。今回の再開にあたりまして、6年前に書いたことの復習も兼ねて、集団音楽療法について述べさせていただきます。

音楽療法とは?

 音楽療法は、正確には「音楽療法とは、音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の機能が低下しているところを改善させたり、機能の維持改善などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」と定義されています。つまり、漠然と音楽を使って心や体を癒すだけではなく、治療目的に沿って専門的な知識の下に音楽を使うのが音楽療法です。

 現在病院等で治療として行われている近代的な意味での「音楽療法」は比較的歴史が浅く、20世紀はじめにアメリカで発祥しました。日本ではさらに遅れて戦後になってから行われるようになり2001年に日本音楽療法学会が設立されるに至りました。現在、「音楽療法」は裾野が広がり、多くの医療や介護の現場において取り入れられるようになってきています。

 当院においても、6年前に医師であり音楽療法士でもある副院長と、非常勤の音楽療法士・谷口奈緒美を中心に、他の医療職の協力を得ながら音楽療法に取り組み始めました。当院で行っている音楽療法は、神経学的音楽療法と呼ばれるものが中心です。神経学的音楽療法はコロラド州立大学のタウト博士が提唱した、神経疾患の機能障害に対し、音楽を用いてアプローチする方法で、脳卒中やパーキンソン病に対して効果ありと報告している論文が数多く発表されています。日本神経学会が作成している『パーキンソン病治療ガイドライン』にも、パーキンソン病患者さんの身体機能改善に「音楽療法を試みるとよい」と書かれています。

集団音楽療法において、個別音楽療法よりも優れている点

 音楽は、個人によって、嗜好が様々であり、また、同じ音楽であってもその日の体調や気分によって受け止め方が大きく異なることは言うまでもありません。そのため、どうしても個別的に音楽療法がおこなわれるケースが多くなります。けれど、決して集団音楽療法の効果が低いとは言い切れません。集団音楽療法において、個別音楽療法よりも優れている点は、「社会的働き」を用いる点です。例えば、合奏や合唱などは、他者と協力が必要であり、社会性・協調性が培われます。校歌の斉唱、祭りの踊り、軍隊の行進などは集団としての連帯感を高める作用があります。人前で歌ったり、演奏することは、自己表現を促します。話が苦手な人も、音楽によってスムーズにコミュニケーションがとれるようになり、対話を促すケースがあります。一般的な、音楽の聴き方においても、一人よりも、ライブにおいて演奏者と聴衆が一体となった場で、心に響くものが遥かに大きいと感じることは、多くの方が経験されているのではないでしょうか?

 5類になったからと言って、コロナウイルスの感染力や毒性が低くなったわけではありません。世間では、声出しOKのライブの徐々に行われているようですが、集団音楽療法において声出しはまだまだ時期尚早と言わざるを得ません。出来ることは限られますが、その中でも様々な工夫を凝らし、できるだけ患者さんの回復に寄与する集団音楽療法を提供させていただきたいと考えております。

リハビリ見学スタート

 現在、新型コロナウイルスの感染対策のため入院中の面会は原則中止させていただいており、入院患者さん及びご家族の方にはご不便をおかけしております。リハビリテーションを提供する私達は電話などでご家族にリハビリテーションの進捗状況などを報告していますが、電話ではなかなかイメージが湧かない事などがあります。そこで、当院は2023年5月より「リハビリ見学」という取り組みを始めました。リハビリ見学は新型コロナウイルス感染症対策を徹底しながら、実際にリハビリをしている場面を直接家族の皆様に見ていただき、現在の状況や練習、課題などを共有する場になる事を目指しています。家族の皆様が患者さんの回復過程をより身近に感じていただけると幸いです。また、療法士が丁寧に説明を行い、リハビリテーションのプログラムや進捗状況について詳しくご説明します。ご家族からの質問や疑問にもお答えし患者さんの状態についても報告させていただきます。

見学に関して

 見学の時間帯は、16時20分から2組、16時40分から2組の見学を行い、1日に最大4組の見学を行っています。1組2名までとし見学者の人数を制限することで、密集を避け、可能な範囲での安全な環境を確保しています。ぜひご利用下さい!!

 また、いつの日か4年前のように患者さんとご家族と一緒にリハビリテーション室で歩く練習をしたり、問題を一緒に解いたりするなど、ワイワイ出来る日を待ち望むばかりです!!

副院長推薦 日本のロック・フォーク・ポップス名盤

第12回 「出町柳パラレルユニバース」ASIAN KUNG-FU GENERATION

きたおじさん
京都に縁のある作品を中心にご紹介しています。

ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)とは、1996年に横浜の関東学院大学の音楽サークル内で結成された4人組ロックバンドです。2022年9月28日にリリースされた29枚目のシングルが同月30日公開の夏目真悟監督によるアニメ『四畳半タイムマシンブルース』の主題歌「出町柳パラレルユニバース」です。『四畳半タイムマシンブルース』の原作は、上田誠の舞台脚本を原案とした、2020年に発表された森見登美彦の小説です。

『四畳半タイムマシンブルース』

 お話は「主人公の「私」が下宿する、京都出町柳にほど近いアパート「下鴨幽水荘」で唯一のエアコンが、リモコンにコーラがこぼれてしまい動かなくなり、翌日、25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたという青年が現れ、「私」は、彼のタイムマシンで昨日に戻り、壊れる前のリモコンを持ってくることを思いつく」というものです。舞台はほぼ「下鴨幽水荘」とその周辺に限られており、アニメにも下鴨神社、鴨川デルタ、出町柳駅等左京区内の実在する場所が登場します。

「出町柳パラレルユニバース」

 「出町柳パラレルユニバース」に話を戻します。作詞・作曲はアジカンのほとんどの作品を手掛けるヴォーカル兼ギターの後藤正文です。曲前半は王道のアジカンサウンドと言えるストレートなロックなのですが、3分を越えたところで突然、後期Beatlesを彷彿とさせるサイケデリックなサウンドに変化します。このことについて後藤正文は、ラジオ番組のインタビューで「京都という街のサイケなイメージを音にした」という意味のことを述べていました。京都というと「雅、伝統、優美」といった良いイメージや「いけず、排他的、本音を言わない」等の悪いイメージを抱く人は多いと思いますが、「サイケ」という表現は初めて聞き少し驚きました。けれど、私個人的には端的に京都を表していると思いますし、嬉しくも感じました。能、狂言、歌舞伎、華道、茶道、日本画といった古典的文化が盛んなだけでなく、映画、ゲーム、アニメ、フォークといった新しいカルチャーを世界に向けて発信し、新旧混じり合って化学反応を起こす京都は「サイケ」な街であると思います。

脳神経リハビリ北大路病院
副院長 音楽療法士 岡田 純