四季報そよかぜ 2022年4月号

ワクチンと副反応について

1年前、新型コロナウイルスに対するワクチンのことを書かせていただきました。その後日本において成人を中心に広くワクチン接種が進められ、この記事を書いている時点で、のべ2億2千万回、実人数で約1億人が2回の接種を終了しています。発熱や接種部位の腫れや痛みといった副反応はしばしばみられ、ごくまれにアナフィラキシーや心筋炎といった重い副反応も報告されていますが、副反応が原因で亡くなったとされている方は報告されていません。まだ一度も打ったことがない方や3回目の接種を迷っている方もおられると思いますが、効果も安全性も高いと考えられますので、接種していただくことをお勧めします。

そして、当院では小児科がありませんので行う予定はありませんが、5歳から11歳の子どもを対象とした新型コロナワクチン接種も開始されました。小児へのワクチン接種については、成人とは異なる副反応を心配されている方もいると思います。子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)のことを思いだす人も多いでしょう。

子宮頸がんはHPVというウイルスに感染することが原因で発症しますが、ワクチンによって感染を予防することができます。そこで、2013年4月にHPVワクチンが定期接種化されました。ところが、接種後に慢性の疼痛やけいれんなどの多様な症状を訴える方が相次ぎ、2か月後の6月に積極的勧奨が差し控えられたのです。しかし、その後10年間の調査で慢性の疼痛やけいれんなどの多様な症状はHPVワクチンを接種していない思春期の女性にもしばしばみられ、その出現頻度は、ワクチン接種した人と同程度であることが解ってきました。つまり、これらの症状はHPVワクチンの副反応ではない可能性が高いのです。「機能性身体症状」であるとする意見が有力です。「機能性身体症候群」は「症状の訴えや、傷つき、障害の程度が、確認できる組織障害の程度に比して大きいという特徴を持つ症候群」と定義され、身体症状ははっきりしているものの、検査で異常がはっきりしない一連の病気を指します。当院で行っている心療内科の対象疾患にもなります。

その結果を受け、2021年11月、厚生労働省は積極的勧奨を再開することを決定しました。しかし、マスコミのHPVワクチンへのネガティブキャンペーンも相まって、積極的勧奨が差し控えられた10年間において接種率は1%以下に低下してしまいました。現在、日本国内において子宮頸がんは年間1万人が罹患し 約2,900人が死亡しています。過去にHPVワクチンを接種していればこれらの方の大部分が助かったと考えられます。つまり、この10年間でのHPVワクチン接種率低下は、今後予防できたはずの10万人の子宮頸がん患者と29,000人の死者を出してしまう可能性があるのです。

このような過ちを繰り返してしまうことは許されません。しかし、すでに新型コロナワクチンを接種した後に、慢性の疼痛やけいれんなどの多様な症状が出現した人に対して、十分な検査も行わずに「ワクチンの副反応だ。」と断定する医師やそれをセンセーショナルに報じる一部マスコミも見受けられます。確かに、ワクチンを接種した後体調不良になり、病院を受診して「原因がはっきりしないのでじっくり調べてみましょう。」と言われモヤモヤするよりも、話を聞いてもらいその場で「ワクチンの副反応です。」と断定される方がスッキリしますし、その医師を信頼してしまう気持ちはよく解ります。しかし、それはワクチンの副反応以外の可能性を排除してしまい、結果的に間違った治療を選択する可能性があり大変危険です。

ワクチンを接種した後に身体の不調を来した場合、「副反応だ。」と決めつけるのではなく、接種した医師やかかりつけ医に相談して原因を慎重に調べることが重要と考えます。

理事長 岡田 純

異常行動?

認知症と診断されている人が、夜中に何度も電話をかけてくる。そんなことがあったら、みなさんどう思われるでしょうか?

家族であれば、困るのでなんとかしてほしいと思われるかもしれません。少し医学的な知識があると、見当識障害があって昼と夜がわからなくなっているとか、記銘力障害があって電話したことを忘れているなどと考えるかもしれません。いずれにしても、認知症の症状である、異常行動である、と考える人が多いのではないでしょうか。

実際にあったことですが、ある患者さんのご家族は、困っているから薬で抑えてくださいというのではなく、よく話を聞かれました。ちょうどその頃は熊本県で豪雨の被害が出ているとしきりに報道されているときでした。その患者さんはそういう時、よく義捐金を送っていたことをご家族は思い出されたのです。今回もそうしたいけれど、認知症のためどうしていいかわからないのではないかと気づかれ、今度一緒に手続きしましょうと言ったら、電話はかかってこなくなったそうです。「何度も電話をかけてくる」ということを「認知症による異常行動」と決めてしまっては、被災の報道に心を痛めるというやさしい心を見逃してしまうところでした。

別の患者さんのご家族は、しょっちゅう電話がかかってきては、あんたが財布を盗んだと言われ、疲弊しておられました。しかし一度だけ「もう一人では無理、さみしい」という留守電が入っていたそうです。困った母だとしか見られずに、「さみしい」という心の声を聞いていなかったのではないか。そう気づかれ、お孫さんと相談して毎日電話をかけてくれることになりました。そうすると被害妄想的な電話がなくなったそうです。

私たちはつい、自分の得た“知識”を使って相手の能力を測ろうとしたり、自分の都合で困った人だと決めてしまったりします。相手が何を見て何を感じているか、その心をただそのままに知ろうとする“智慧”に触れると、いかに自分が病気を知ったつもりになって、人の心を見ていなかったかを思い知らされます。

脳神経内科 岸上 仁

理事長推薦 日本のロック・フォーク・ポップス名盤

第8回 『大変』近藤等則

きたおじさん

京都にゆかりの深いアーティストの作品や、そのアーティストに関連のある作品をご紹介しています。前回のヒャダインに引き続き今回も京都大学出身のアーティストをご紹介します。一昨年惜しくも亡くなったジャズ・トランぺッター近藤等則です。

 近藤は1948年愛媛県今治市出身で、愛媛県立今治西高等学校卒業後、京都大学工学部から京都大学文学部英米文学科に転科して卒業しました。
 大学を卒業した近藤はフリー・ジャズ・シーンに身を投じ、76年山下洋輔のアルバム『家』でデビューします。その後フリー・ジャズに飽き足らず、ファンク、ニューウェイヴ、ヒップホップへも接近していき、IMA(International Music Activism の略)を結成、84年にビル・ラズウェルをプロデューサーに迎え、デビューアルバム『大変』をリリースします。ビル・ラズウェルは前年の83年に、ハービー・ハンコックの大ヒット作『フューチャー・ショック』を、彼が率いる音楽集団マテリアルの全面バックアップで制作したばかりで、当時飛ぶ鳥を落とす勢いでした。『フューチャー・ショック』は、多くのジャズ・ファンに初めて「スクラッチ」の音を聴かせて、ジャズ界にとどまらず、音楽界全体に衝撃を与え、ヒップホップというジャンルを世に知らしめることになった作品です。筆者も当時、「なんじゃこれは!?」と思いつつもあまりのカッコよさに腰が砕けそうになりました。

 さて『大変』ですが、オープニング・ナンバー「タイヘン」で、「タイヘン!タイヘン!ヘンタイ!タイヘンタイ!」と歌われているように、『フューチャー・ショック』よりもさらにビル・ラズウェルの変態サウンドが前面に押し出され、近藤等則のエキセントリックな音と絡み合い大変なことになっています。ハンコックのお洒落で洗練されたピアノやシンセよりも、近藤の狂逸的なサウンドとフレーズの方がラズウェルにマッチしているのではないかと個人的には思っています。

 IMAは10枚のアルバムを発表し人気を博しますが93年解散し、近藤は大自然の中でトランペットを吹く「地球を吹く」という新しい試みに挑戦していきます。そして、2020年10月に亡くなる直前まで精力的に音楽活動をこなしていました。享年71歳でした。ご冥福をお祈りします。

医師・音楽療法士 岡田 純

 

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新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、脳ドックを休止させていただいておりましたが、感染対策に万全を期し、従来とは内容を変え再開する運びとなりました。
検査をMRI検査だけに絞り、診察なしにすることで、短時間で受けて頂ける脳ドックを始めました。
結果は脳外科医と放射線科医のダブルチェックの後、画像のCD-Rとともに後日郵送させて頂きます。検査時間は30分程度です。
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